漢文へのアプローチ



11課 複文の構成②

──様々な複文の構造②


◆複文の類型と相関語句のいろいろ(続)

10課の続きで、各種の相関関係とそれを示す主要な「相関語句」や「呼応表現」について説明する。


●6.譲歩関係〔たとえAでもB〕〔AではあるがB〕

前節で譲歩条件を示し、後節でその条件にもかかわらず依然として一定の状況や事実が生じることを述べる構文を〈譲歩文〉という。〈譲歩文〉には、前節に事実として、あるいは仮定としての譲歩条件(たとえ…としても)を表す接続詞「雖」を置く場合、前節に事実としての譲歩条件(たしかに…だが)を表す「雖」を置き、後節に転折を表す接続詞「然・而・然而」や依然として同様の事情があることを表す副詞「亦・尚」などを置いて明示する場合、前節に仮定としての譲歩条件を示す接続詞「縦」などを置き、後節に反語を表す副詞「豈・寧」や事態の継続を表す副詞「猶」などを置く場合などがある。


■相関語句:接続詞「雖」(いえども)=「…ではあっても…」「たとえ…でも」
欲勿許、其可得乎。[ゆるすなからんとほっすといえども、それ うべけんや](許すまいと思ったとしても、それができようか(いやできない)。)
■相関語句:接続詞「縦」「縦使(令)」「仮使(令)」「設」「設使(令)」「即」「即使」「就」(たとい)=「たとえ…でも」
江東父兄憐而王我、我何面目見之。[たとい コウトウのフケイ あわれみて われをオウとするも、われ なんのメンモクありて これにまみえんや](たとえ江東の長老たちが憐れんで私を王にしてくれるとしても、私は彼らに合わせる顔がない。)
仮使得長生、才能勝夭折。[たとい チョウセイをうるも、わずかに よくヨウセツにまさるのみ](たとえ長生きできたとしても、夭折するよりちょっとましなだけだ。)
操破瓊、吾抜其営、彼固無所帰矣。[たとい ソウ ケイをやぶるも、われ そのエイをぬけば、かれ もとより かえるところなからん](たとえ操が瓊を破ったとしても、わが軍が操の本営を攻め取れば、彼はきっと帰る場所がなくなるだろう。)
■相関語句:接続詞「仮如」(かりにもし)=「かりに…だとしても…」
仮如三万六千日、半是悲哀半是愁。[かりにもし サンマンロクセンニチなるも、なかばはこれ ヒアイ なかばはこれ うれえなり](仮に三万六千日生きたとしても、その半分は悲しみで半分は愁いだ。)
■相関語句:接続詞「則」(すなわち)=「…ではあるが」
⑥治治矣、非書意也。[チはすなわちチなるも、ショのイにあらざるなり](治まることは確かに治まったが、手紙の意図ではない。)
■呼応表現:「~則~抑~」型(…はすなわち…、そもそも…)/「~則~然~」型(…はすなわち…、しかれども…)=「確かに…ではあるが」
⑦多多矣、君似鼠。[おおきは すなわち おおきも、そもそも クン ねずみににたり](確かに戦果は多かったが、君のやり方はネズミのようだ。)
■呼応表現:「雖~然~」型(…といえども、しかれども…)/「雖~亦~」型(…といえども、また…)=「…ではあるが」「たとえ…でも」
⑧楚有富大之名、実空虚。[ソ フダイのなありといえども、しかれども ジツはクウキョなり](楚は豊かで広いという名声はあるが、実際は空っぽだ。)
⑨寡人死、無悔也。[カジン シすといえども、また くいなきなり](寡人(わたし)はたとえ死んでも、悔いはない。)

●7.因果関係〔AだからB〕〔AはBだから〕

一般に、前節が原因・前提を述べ、後節が結果・推断を述べる構文。場合により、先に結果を述べ、後から理由・原因を説明する形をとる。

後者のような、ある事実の結果を前節に示し、その原因や理由について後節で解釈または究明する構文を〈究明型〉と称する。〈究明型〉には、後節の文末に語気助詞「也」を置いて明示する場合、後節に理由を表す接続詞「蓋・為・以」などを置き、文末に語気助詞「也」を置いて明示する場合、前節の結果に対して、後節に構造助詞と前置詞が結合した接続詞「所以」を置いてその理由を説明する場合などがある。

また、前節・後節の複文形式をとらず、結果を表す前節が独立した一文になり、それを「何則・何者・何也」などで受けてその後に理由を説明する形をとる場合もある。


■相関語句:接続詞「故」「所以」(ゆえに)=「だから」「なので」※結果節の前に置く。
①古之人与民偕楽、能楽也。[いにしえのひとは たみとたのしみをともにし、ゆえに よくたのしむなり](昔の人(為政者)は民と楽しみを共有したので、(本当に)楽しむことができた。)
②温嶠辞厳義正、所以能留陶侃。[オンキョウ ジはゲンにして ギはセイなり、ゆえに よくトウカンをとどむ](温嶠は言葉に威厳があり筋道が正しいので、陶侃を慰留することができた。)
■相関語句:接続詞「是以」「是用」(ここをもって)/「是故」(このゆえに)=「そういうわけで」(結果節の前に置く。)
③仲尼之徒無道桓文之事者、是以後世無伝焉。[チュウジのトに カンブンのことをいうものなく、ここをもって コウセイ デンなし](仲尼(孔子)の弟子には斉の桓公・晋の文公の事跡を語る者がおらず、そのため後世、伝承が途絶えた。)
■相関語句:接続詞「因」(…(に)よりて)=「…という理由によって…」「そこで」(前節に置かれて理由・原因を導く場合と、結果節の初めに置かれて「そういうわけで、故に」の意味となる場合とがある。)
愛鼠、不畜猫犬。[ねずみをアイするによりて、ビョウケンをやしなわず](鼠が好きなので、猫や犬を飼わない。)
⑤秦軍解、大破之。[シングン おこたり、よりておおいにこれをやぶる](秦軍は戦意を失い、そこで大いにこれを破った。)
■呼応表現:「以~故~」型(…をもって、ゆえに…)=「…という理由によって…」※この場合「以」は接続詞。
⑥懐王不知忠臣之分、惑于鄭袖。[カイオウ チュウシンのブンをしらざるをもって、ゆえに テイシュウにまどわさる](懐王は忠臣(と佞臣)の区別を知らなかったために、鄭袖に惑わされた。)

〈究明型〉

■相関語句:接続詞「蓋」(けだし)=「…だからであろう」(後節の初めに置かれ、前節〔結果節〕の理由を推測して述べる。)〈究明型〉
⑦孔子罕称命、難言之。[コウシ まれにメイをショウするは、けだし これをいいがたければなり](孔子が運命についてほとんど語らなかったのは、説明し難かったからだろう。)
■相関語句:接続詞「為」(…のためなり)=「…という理由からだ」(後節〔結果節〕の初めに置かれて、前節〔結果節〕の理由を述べる。)〈究明型〉
⑧一羽之不挙、不用力焉。[イチウのあがらざるは、ちからをもちいざるがためなり](一枚の羽根が持ち上がらないのは、力を使わないからだ。)
■相関語句:助詞「者」(…は)=「…のは(…からだ)」(前節〔結果節〕の末に置かれ、後に原因・理由節を導く。)〈究明型〉
⑨遣将守関、備他盗出入与非常。[ショウをつかわして カンをまもらしむるは、タトウのシュツニュウとヒジョウとにそなうるなり](将を派遣して関を守らせたのは、盗賊の出入りや非常事態に備えるためだ。)
■呼応表現:「~者、以~」型(…は、…をもってなり)=「…のは…からだ」〈究明型〉
⑩上索我我有美珠也。[ショウの われをもとむるは、われに ビシュあるをもってなり](君主が私を求めるのは、私が美しい珠を持っているからだ。)

「所以」──所字構造と前置詞

「所以」は熟語として「ゆえん」と訓じられ、動詞の前に付いて理由・原因、方法・手段を表す名詞句を作ったり、また「ゆえに」と訓じられて接続詞の働きをしたりするが、本来は所字構造を作る助詞「所」と前置詞「以」が組み合わされたものである。「以」は理由や手段を導く前置詞なので、例えば「君子所以為君子」(君子の君子たるゆえん)とあれば、「君子がそれによって君子であるような理由=君子がなぜ君子であるのか」と訳される名詞句になる。

同様に、所字構造に各種の前置詞が組み合わせられると、その前置詞がかかる不定の目的語(動作行為の前提となる事物・場所)を表す名詞句となる。

例えば、「所従来」(よって来たる所)は「来る行為の起点になった場所=どこから来たか」となり、「所由生」(よりて生ずる所)は「生じるもとになったもの=何から生じたか」となり、「所於隠」(おいて隠るる所)は「隠れる行為の行われる場所=どこに隠れたか」となり、「所与交」(ともに交わる所)は「交際する相手」となる。


●8.仮設関係〔もしAならばB〕〔もしAだったとしたらB〕

前節がある仮定条件(未実現の条件や事実に反する想定)を述べ、後節がその仮定に基づいて想定される結果・推断について述べる構文。


■相関語句を用いない例
①沛公不先破関中、公豈敢入乎。[ハイコウ さきにカンチュウをやぶらざれば、コウ あに あえていらんや](沛公が先に関中を破っていたのでなければ、あなたはどうして入ろうとしたでしょうか。)
■相関語句:接続詞「如」「如使」「若」「若使」「使」「向使」「令」「即」「設」「儻」「苟」「脱」「脱誤」(もし)=「もし(…ならば…)」(「苟」は「いやしくも」と読む場合もある。)
其不才、君可自取。[もしそれ フサイなれば、きみ みずからとるべし](もし彼が愚かであったら、あなたがみずから取るがよい。)
使我得此人、豈有今日之労乎。[もし われ このひとをうれば、あに コンニチのロウあらんや](もし私がこの人を得ていれば、どうして今日の苦労があっただろうか。)
脱誤有功、富貴可致。[もし コウあれば、フウキ いたすべし](もし手柄を立てれば、富貴が手に入るだろう。)
■相関語句:接続詞「果」(はたして)/「誠」(まことに)=「ほんとうに」「もし」
⑤聖人可以利其国,不一其用。[セイジン はたして そのくにをリすべくんば、そのヨウをイツにせざらん](聖人は、もしその国を利することができるなら、器物の使用を一つに限定しないだろう。)
■相関語句:副詞「一」(ひとたび)/「一旦」(イッタン)=「いったん」「もし」
⑤此鳥飛,冲天。[このとり ひとたび とべば、テンをつく](この鳥がもし飛び立てば、天までも至るだろう。)
■相関語句:接続詞「微」(なかりせば)=「もし…が無かったならば…」(事実に反する「不存在」を仮定する。)
管仲、吾其被髪左衽矣。[カンチュウなかりせば、われ それ ヒハツサジンせん](もし管仲がいなかったら、我々はざんばら髪で左前に服を着ていただろう。)
■相関語句:接続詞「自非」(もし…にあらざれば)=「もしも…でなければ…」「…でない限りは」(古い訓読では「…にあらざるよりは」と読まれた。)
自非聖人、外寧必有内憂。[もし セイジンにあらざれば、そと やすきも かならず ナイユウあり](聖人でない限りは、国外が安定したとしても必ず内政に問題が起こる。)
■呼応表現:「如~則~」型(もし…すなわち…)=「もし…ならば…」(「如」には「もし」と読む各種の相関語句が替って入り得る。)
有信之者、不遠秦楚之道。[もし これをシンずるものあれば、すなわち シンソのみちをとおしとせず](もし信じてくれる者がいるなら、秦や楚までの道のりでも遠いとは思わないだろう。)
向使有寿、何求不可。[もし ジュあれば、すなわち なんのもとめか カならざらん](もし寿命があるなら、どんな求めでも叶うだろう。)
■呼応表現:「誠~則~」型(まことに…すなわち…)=「もしも…ならば…」
如是、覇業可成。[まことに かくのごとくんば、すなわち ハギョウ なるべし](もしこのようになれば、覇業は完成するだろう。)
■呼応表現:「〔主語〕而~、~」型(…にして…なれば、…)=「…がもし…ならば…」
人而無恒、不可以作巫医。[ひとにして つねなくんば、もって フイとなるべからず](人間でも恒常不変の心がなかったとしたら、占い師や医者にはなれない。)

●9.条件関係〔AであればB〕〔AするとB〕

前節がある条件を述べ、後節がその条件のもとで生じる結果について述べる構文。条件節に提示された条件が満たされれば後節の結果が生じるということに、一定の法則性や恒常性もしくは普遍的妥当性があるような場合、ある条件のもとにすでに結果が生じている場合などをいう(その点で、ある仮定の条件のもとにおける結果の可能性を推測する「仮設関係」の構文とは異なる)。


■相関語句を用いない例
①狡兎死、走狗烹。[コウト シして、ソウク にらる](すばしこい兎が死ねば、(用済みになった)猟犬も煮られてしまう。)
■相関語句:接続詞「則」(すなわち)=「…すると…」「…すれば…」※後節の初めまたは主語の後に置く。
②金就礪、利。[キン レイにつけば、すなわち リなり](金属は砥石につければ、鋭くなる。)
■相関語句:接続詞「然後」「而後」(しかるのち)=「…して、そこではじめて(…する)」(前節(条件節)と後節の間に置く。)
③国人皆曰賢、然後察之。[コクジン みな ケンなりといいて、しかるのちに これをサツす](国の人々がみな賢者だと言って、はじめてその人をよく観察する。)
■相関語句:接続詞「既」(すでに)=「…したからには…」※前節(条件節)の述語の前に置く。
以蔵之、不可不行。[すでにもつてこれをゾウすれば、おこなわざるべからず](それを手に入れた以上は、行わないわけにはいかない。)
■相関語句:接続詞「無」(…となく)=「…を問わず」(前節〔条件節〕に置く。)
⑤事大小、悉以咨之。[こと ダイショウとなく、ことごとく もって これをはかる](事は大小を問わず、すべて相談する。)
■相関語句:接続詞「毎」(…ごとに)=「…するたびに」(前節〔条件節〕の初めに置く。)・副詞「輒」(すなわち)=「…するたびに」(後節〔結果節〕の述語の前に置く。)
見其文、歎伏以為絶倫。[そのブンをみるごとに、タンプクして もって ゼツリンとなす](彼の文章を見るたびに、感服して抜群だと思う。)
剣加高祖之上、項伯以身覆高祖之身[ケン コウソのうえにくわわるごとに、コウハク すなわち みをもって コウソのみをおおう](剣が高祖の身に向かうたびに、項伯は自分の体で高祖の身をかばった。)
■相関語句:副詞「始」「方」(はじめて)=「…して、そこではじめて(…する)」(後節の初めまたは主語の後に置く。)
⑧入松林二百歩、至墓。[ショウリンにいること ニヒャッポにして、はじめて はかにいたる](松林に二百歩入って、やっと墓に着く。)
■呼応表現:「非~不~」型(…にあらざれば…せず)=「…でなければ…しない」
⑨民水火生活。[たみは スイカにあらざれば セイカツせず](民は水や火のおかげでなければ生きてゆけない。)
■呼応表現:「不~不~」型(…せざれば…せず)=「…しなければ…しない」
⑩聖人死、大盗止。[セイジン シせざれば、ダイトウ やまず](聖人が死ななければ、大盗賊はなくならない。)
■呼応表現:「必~然後~」型(かならず…、しかるのち…)=「必ず…して、そこではじめて(…する)」(副詞「必」は、以下が必須の条件であることを示す。)
得其所待、然後逍遙耳。[かならず そのまつところをえて、しかるのちに ショウヨウするのみ](拠り所を得ない限り、気ままな境地にはなれない。)
■呼応表現:「愈~愈~」型(いよいよ…、いよいよ…)=「…すればするほど…」
⑫周室微、諸侯叛。[シュウシツ いよいよ おとろえ、ショコウ いよいよ そむく](周王室が衰えれば衰えるほど、諸侯は背いてゆく。)

10.時間関係〔AのときにはB〕

前節がある時間・場合について述べ、後節がその時に発生する動作・行為・事柄について述べる構文。


■相関語句:助詞「也」(…や)=「…の時には…」(前節の終りに置く。)
①其幼、好学。[そのおさなきや、ガクをこのむ](彼が幼い頃は、学問を好んだ。)
■相関語句:接続詞「及」(…におよび)=「…の時になって」(前節の初めに置く。)
父死、叔斉譲伯夷。[ちち シするにおよび、シュクセイ ハクイにゆずる](父が亡くなって、叔斉は伯夷に(跡継ぎの位を)譲った。)
■呼応表現:「~之~也、~」型(…の…や、…)=「…が…する時には、…」
③赤適斉、乗肥馬衣軽裘。[セキの セイにゆくや、ヒバにのり ケイキュウをきる](赤が斉に行くときには、肥えた馬に乗り軽い毛皮の上着を着ていた。)
■呼応表現:「及~也、~」型(…におよびてや、…)=「…する時になると、…」
其壮、血気方剛。[その ソウなるにおよびてや、ケッキ まさにさかんなり](壮年になると、血気が盛んになる。)