漢文へのアプローチ



14課 漢文を読んでみよう①


1415課では、実際の文章を自力で読解しながら、これまでに学んだ語法の知識などを確認してみよう。内容的にはなるべくわかりやすい物語的な例文を2話ずつ取り上げる。


《1》劉向『説苑』巻七、政理より

説苑政理

  宓子賤為単父宰,過於陽昼曰:「子亦有以送僕乎?」陽昼曰:「吾少也賤,不知治民之術。有釣道二焉,請以送子。」子賤曰:「釣道奈何?」陽昼曰:「夫扱綸錯餌,迎而吸之者也,陽驕也。其為魚,薄而不美。若存若亡,若食若不食者,魴也。其為魚也,博而厚味。」宓子賤曰:「善。」於是未至単父,冠蓋迎之者交接于道。子賤曰:「車駆之!車駆之!夫陽昼之所謂陽橋者至矣!」於是至単父,請其耆老尊賢者,而与之共治単父。

【注釈】 宓子賤(ふくしせん)=孔子の弟子、宓不斉(ふせい)。子賤は字。  単父(ぜんぽ)=春秋時代の魯国の邑(地方城市)の名。  宰=邑の長官。  陽昼=宓子賤の友人。  釣道=釣りの方法・コツ。  扱=ひく。ひっぱる。  綸=いと。釣り糸。  錯=置く。設ける。(釣り針に餌を付ける。)  陽驕(きょう)=魚の名。白鯈(ゆう)魚。  為魚=「魚たる」と訓じ、魚としての性質・特徴の意。  魴(ほう)=魚の名。  厚味=おいしい。  於是=接続詞、「ここにおいて」と訓じ、「そういうわけで」「かくして」等の意。  冠蓋=冠(かんむり)や蓋(馬車の覆い)を用いるような身分の高い人。  交接=接触しあう。詰めかける。  耆老=年寄り。長老。


《2》『西京雑記』巻二より

西京雑記巻2

  元帝後宮既多,不得常見,乃使画工図形,案図召幸之。諸宮人皆賂画工,多者十万,少者亦不減五万。独王嬙不肯,遂不得見。匈奴入朝,求美人為閼氏。於是上案図,以昭君行。及去,召見,貌為後宮第一,善応対,挙止閑雅。帝悔之,而名籍已定。帝重信於外国,故不復更人。乃窮案其事,画工皆棄市。籍其家,資皆巨万。…(中略)…京師画工,於是差稀。

【注釈】 元帝=漢の皇帝。前4933在位。  画工=絵描き。  図=描く。  形=顔かたち。  案=(規則・資料等に)もとづく。したがう。  召幸=召し出して寵愛する。  宮人=後宮の婦人。  王嬙(しょう)=元帝の宮人の一人。王昭君。  匈奴(きょうど)=蒙古地方にいた騎馬民族。  入朝=属国・外国等が中国の皇帝に謁見する。  閼氏(えんし)=匈奴の単于(ぜんう)(王)の正夫人。  上=皇帝。  挙止=行動。立ち居振る舞い。  閑雅=物静かで優美なさま。  名籍=公式な名簿。  窮案=徹底的に究明する。  棄市=市場で公開処刑する。  籍=没収する。  差=やや。


《練習》『捜神記』巻一より

 注釈は付いていない代わりに返り点を付けてあるので、これを頼りに読んでみよう。

捜神記1劉根

  劉根,字君安。京兆長安人也。漢成帝時,入嵩山道。遇異人授以秘訣,遂得仙。能召鬼。潁川太守史祈以為妖,遣人召根,欲之。至府,語曰:「君能使人見一レ鬼。可使形見。不者,加戮。」根曰:「甚易。」借府君前筆硯符,因以叩几。須臾,忽見五六鬼,縛二囚於祈前。祈熟視,乃父母也。向根叩頭曰:「小児無状,分当万死。」叱祈曰:「汝子孫不栄先祖,何得罪神仙,乃累親如此。」祈哀驚悲泣,頓首請罪。根黙然忽去,不之。