文とそれを構成する単位となる要素の諸段階について、例文をもとに説明してみよう。
という文があった場合に、これを段階を追ってより細かく分解してゆくと、
のようになってゆく。マーカーを付した一つ一つの塊が単位となる構成要素を表している。
(1)段階の区分は、文の一つ下のレベルで、「フレーズ(句)」(中国語では「詞組」)という。
(2)段階の区分は、フレーズをさらに分解した単位で、「単語」(中国語では「詞」)という。
(3)段階の区分は、「形態素」といい、意味を担って文を構成する最小の単位(これ以上分解すると意味をなさない単位)である。
漢文では、原則として一つの「形態素」が一つの文字に当っている(そうでない例は後述する連綿語・音訳外来語など)。また、「不」や「能」など、一つの形態素で一つの単語になっているものもある。
つまり、文字(形態素)が組み合わせられて単語が作られ、単語が組み合わせられてフレーズが構成され、フレーズとフレーズが、あるいはフレーズと単語が組み合わせられて文になる、という具合になっているのである。
漢文における単語は、その構造上の特徴から、単純語と合成語に分けることができる。単純語とは、一つの形態素から成り立つもので、そのほとんどは一つの漢字で表記される。なお、単純語でも二つ以上の文字を組み合わせて表現されるものがあるが(連綿語など)、この場合の二つの字の組み合わせ方には、音表記上の必然性はあっても、語法的な必然性は基本的にない。
「合成語」とは、一定の法則に基づいて二つの形態素が結合されたものである。漢語における合成語の構成原理は、文の構成原理と基本的に一致するので、普段からこの合成語の構造に注意することによって、漢文の文法構造がよりよく理解できる。
以下に、漢語における「熟語」(二つ以上の文字を組み合わせた単語)の分類を表にして掲げておく。なお、説明を要すると思われる語には傍線を付し、表の後に説明を掲げる。
【「熟語」の分類 】 | ||||||
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A 合成語 | 1 付加型 | ① 接頭語型 | 老虎 阿父 有宋 | a | ||
② 接尾語型 | 君子 椅子 莞爾 忽然 | b | ||||
2 複合型 | ① 主述型 | 地震 日没 国立 天授 | c | |||
② 動目型 | 読書 注意 開業 即位 | d | ||||
③ 修飾型 | ア 連体修飾語+名詞 | 老人 早朝 大臣 玉杯 | e | |||
イ 連用修飾語+動詞 | 激動 外出 悲観 山積 | f | ||||
④ 補充型 | 説明 打倒 撃滅 推進 | g | ||||
⑤ 等位型 | ア 同義語・類義語 | 身体 疾病 永久 援助 | h | |||
イ 同範疇 | 詩文 貧賎 富貴 風雨 | i | ||||
ウ 反義語 | 善悪 進退 緩急 得失 | j | ||||
⑥ 認定型 | 不良 不正 非常 有利 | k | ||||
⑦ その他 | (助詞+動詞)所得 /(副詞+動詞)将来 未来 | l | ||||
(接続詞+名詞)以前 而後 | ||||||
⑧ 同字重ね型 | 堂堂 赫赫 紛紛 汲汲 | m | ||||
B 非合成語 | 1 連綿語 | ① 同声型 | 参差 髣髴 磊落 躊躇 | n | ||
② 同韻型 | 連綿 彷徨 逍遥 爛漫 | o | ||||
2 音訳外来語 | 釈迦 葡萄 琵琶 | p | ||||
C その他 | 1 固有名詞 | 孔丘 司馬遷 長安 (李杜 江浙 六朝) | q | |||
2 略語 | 漢志 漢文 経済 | r | ||||
3 故事成語 | 矛盾 推敲 杞憂 蛇足 | s |
合成語(複合型)の構成原理として、右の表の中で「2 複合型」の①~⑤に掲げられた五つの構造は非常に重要であり、フレーズの構造、文の構造など漢文の語法すべてに共通するものなので、以下に特に説明を掲げておく。是非よく理解しておいてほしい。なお、「主語」「述語」等の「文の成分」については第4課で詳しく説明する。
言語学的に見た漢文の特色は、「無構造言語」「孤立語」という点にあるとされる。「膠着語」と呼ばれる日本語や朝鮮語のように単語の間に助詞がついたり、「屈折語」と呼ばれる欧米の言葉のように語形が変化したり活用したりはしない。主語となろうが、述語となろうが、修飾語となろうが、単語としての漢字はそのままの形で変化しない。これが無構造言語の特徴である。
このような性格をもつ漢文の語法においては、その最大の特質は、「語順への依存」、つまり、文中における単語の性格がその語の配置される順番・位置によって決まる、という点にある。例えば、
という文では、「我」が主語で品詞は代詞、「読」が述語で動詞、「書」が目的語で名詞、と取れるが、
という語順になった場合は、「書」は述語で動詞と考えなくてはならない。「書」という文字自体には全く変化がなくても、その位置が変わるだけで働きや意味も変わり、したがって品詞までが違って来てしまうのである。
つまり、漢文の場合、はじめから品詞という確固たるものがあるわけではなく、文の中での位置によって意味や働きが決まり、その働きを品詞という西洋言語の概念を借りて便宜的に説明しているに過ぎないと言える。つまり「語順」と「品詞」と「文の成分」とはひとセットのものだということである。以下ひと通り品詞について説明するが、この点を踏まえた上で読んでいただきたい。
【品詞分類表】(挙げてある例は主なもののみ) | ||||||||
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実詞 | ①名詞 | ①人物や事物の名称(普通名詞) ②人名・地名・書名等(固有名詞) | 文においては主語・目的語となる。時間詞・方位詞は、副詞的にも用いられる。 | |||||
③時間(時間詞) ④方位・方向(方位詞) | ||||||||
②動詞 | ①人物・事物の動作・行為 ②思考・意志・感覚等の心理活動 ③状況 ④存在(存在動詞=有・無) ⑤事物の変化・状態 ⑥類似・比較・判断(判断詞=為・是・非・若・曰・謂) | |||||||
③助動詞 | ①可能(可・能・得) ②必要・当為(須・当・宜・応) ③願望(欲・願) ④受動(見・被) ⑤推量(当・応) | 能願動詞ともいう。述語に対して様々な意味を添加する機能を果たす。 | ||||||
④形容詞 | ①人物・事物の形状・性質 ②動作・変化の状態 | 主に述語となる。他に、名詞を修飾する連体修飾語、述語を修飾する連用修飾語(副詞的用法)にもなる。 | ||||||
⑤数詞 | 数を表わす。(一・二・三…十・百・千・万…) | 主に修飾語。主語・述語・目的語にもなる。 | ||||||
⑥量詞 | 事物・動作を計量する語。 | 数詞と結合して(結合したものを数量詞という)、名詞を修飾したり、動詞の補語となったりする。 | ||||||
⑦代詞 | 人物や事物、動作、状態、数量等を代替したり、指示する機能を果たす語。 ※「代名詞」と呼ばないのは、「どのような」「どのように」等の意味を持つ語も含まれるから。 | 主語・目的語となり、また主に名詞を修飾する。 | 人称代詞 | 一人称 | 単数 | 吾・我・余・予・己 謙称=臣・僕・妾・寡人 | ||
複数 | 吾・我 | |||||||
二人称 | 単数 | 女・汝・爾・若・乃・而 尊称=子・君・公・卿 | ||||||
複数 | 女・汝・爾・若 | |||||||
指示代詞 | 近称=此・是・斯・之 遠称=彼・夫・其 傍称=他・它 虚称(不特定・仮想)=或・某 無称(不存在)=莫 | |||||||
疑問代詞 | 人物=誰・孰 事物=何・曷・奚・胡・孰 場所=悪・烏・安 理由・原因=何・曷・奚 | |||||||
⑧副詞 | 動詞・形容詞あるいは副詞を修飾する。 | 程度副詞 | 極度=極・絶・甚 高度=益・更 軽度=稍・少・微 | |||||
範囲副詞 | 総括=皆・悉・具 限定=只・但・唯・独 共同=共・互・相 | |||||||
時間副詞 | 過去=既・已・嘗・向 現在=方・正 将来=将・垂・欲 終局=終・卒 緊接=俄・遽・立・即 恒常=恒・常・長 変化=稍・漸・徐 | |||||||
数量副詞 | 重複=又・亦・復・更 頻度=数・屡 | |||||||
謙敬副詞 | 謙譲=窃・伏 表敬=請・辱・謹 | |||||||
否定副詞 | 否定=不・弗・非・未 禁止=莫・勿・無・毋 | |||||||
語気副詞 | 確定=必・定・誠・固 推定=殆・蓋・或 反語=豈・何・安 | |||||||
虚詞 | ⑨前置詞 | 名詞・代詞・句などを目的語として「前置詞構造」を構成し、述語を修飾・説明する。 | 時処前置詞(時間・地点) | 自・於・由・当・在・従 | ||||
原因前置詞(原因・目的・理由) | 為・因・以・用・由 | |||||||
方式前置詞(方法・手段・根拠) | 因・以・用 | |||||||
関係前置詞(処置対象・比較対象・受動) | 於・為・与・対 | |||||||
⑩接続詞 | 語と語、句と句、節と節を結合し、論理的関係を示す。 | 順接・転折・並列・累加・選択・譲歩・条件・仮定・因果など。 ※必ずしも節のつなぎ目に置かれるわけではない。前節の文頭または文中に置かれ、後節との論理的関係を表示するものも有る。 |
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⑪助詞 | 構造助詞 | 語や句、文の前後に置かれ、語法上の関係を明示する。 | 之・者・所 | |||||
語気助詞 | 文頭・文中・文末に置かれ、語気を表現する。 | 文末 | 陳述=也・矣・耳 疑問=乎・邪・也・歟 反語=乎・也 詠嘆=夫・乎・哉 推測=乎・邪・也・哉 | |||||
文頭 | 発語=夫・惟・維 | |||||||
文中 | 停頓=也・云・其・或 | |||||||
⑫嘆詞 | 文の独立成分として、喜びや悲しみなどの強い感情を表現したり、応答を表わしたりする。 | 嗚呼・嗚・嗟夫・嗟乎・噫・諾・唯 |
人物・事物・時間(時間詞)・方位(方位詞)等の名称を表す普通名詞と、人名・地名・書名等を表す固有名詞がある。
人物や事物の動作・行為や心理活動、存在、状態の変化、類似・比較や認定などを表わす。
述語の前に置かれ、可能・願望(「欲」等)・当為(「当」「宜」「須」等)など様々な意味を述語に添加して叙述を補助する働きをする。
人物・事物の形状・性質を表わす。
数を表す。「一・二・十・千」など。主に名詞や動詞を修飾するが、主語・目的語にもなる。
事物や動作を計量する「単位」を表わし、数詞と結合して「数量詞」と呼ばれることもある。主に名詞・動詞を修飾。
人物・事物・場所・理由・原因、動作・状態、数量などを代替、指示する。文の中では、主語にも、目的語にも、修飾語にもなる。
動詞や形容詞、副詞を修飾して、その程度・範囲・時間・否定・反語などを表わす。また、疑問副詞は疑問・反語の意味、否定副詞は否定の意味を述語に添加する。
名詞・代詞・句などを目的語としてそれらの前に置かれ、「前置詞構造(介賓構造、介詞-目的語構造ともいう)」を構成する。この「前置詞構造」が、述語に対して時間・場所・方法・原因・手段・対象などを補足して修飾する働きをする。詳しくは「文の構造」の項で説明する。
語と語、句と句、節と節を結合し関係づける働きをする。(接続詞の機能については「複文」の項目でも紹介する。)
語・句や文の前後に置かれて、語法上の関係を明確に表示する機能を果たしたり(構造助詞)、陳述や疑問・反語・詠嘆・推測・発語・停頓などの語気を表わしたり(語気助詞)する。
感情を表現したり応答したりする際の語。「嗚呼・嗟乎・諾・唯」など。
基本的には、おのおのの語には語源に従い特定の品詞が割り当て得るし、また、複数の意味をもつ語でも、どの意味の用法であればどの品詞になるかが決まっている。しかし、文の中における一定の使用条件、環境のもとでは、ある語が本来の品詞における語法上の働きを越えて、特殊な働きを担ったり、別の品詞としての働きを担ったりするという、「品詞の活用」(日本語文法における「語形の変化」を「品詞の活用」と呼ぶのとは異なる)が発生する。
名詞が動詞化したり連用修飾語化したりすること、形容詞が動詞化することについては既に述べたが、ここでは、動詞、もしくは名詞や形容詞の動詞化したものが特殊な働きをする場合について説明する。
本来、使役の意味を持たない動詞(自動詞、もしくは名詞や形容詞の動詞化したもの)が、そのままで使役の意味を担うことをいう。(形容詞の例としては、上述の形容詞の項目に挙げた活用例の「富国強兵」なども該当する。)
名詞または形容詞が動詞化することにより、目的語に対して「(名詞・形容詞として表す物や状態のようだと)思う」「…と見なす」という主観的な認定の意味を表すことをいう。