漢文へのアプローチ



第9課 いろいろな文型②

──疑問文・反語文・命令文(禁止文)・比較文


天之蒼蒼其正色邪。 テンのソウソウたるは そのセイショクか。
誰能禦之。 たれか よくこれをふせぐ。
豈不悲哉。 あに かなしまざらんや。
燕雀安知鴻鵠之志哉。 エンジャク いずくんぞ コウコクのこころざしをしらんや。
己所不欲勿施於人。 おのれのほっせざるところ ひとにほどこすなかれ。
百聞不如一見。 ヒャクブンは イッケンにしかず。

◆9-1 疑問文

疑問文は、平叙文の文末に語気助詞を加えて疑問の語気を添えるだけのものと、疑問代詞を用いて示すものの二種類に分かれる。

●語気助詞型

「是非型」の疑問文ともいい、「是か非か」すなわち「はい」か「いいえ」の答えを求める型の疑問文である。平叙文に対して語順の変化などを伴わずに、そのまま文末に疑問の語気を表わす語気助詞を加えたもの。疑問の語気助詞としては、「与」「歟」「乎」「邪」などがある。


⓪天之蒼蒼其正色邪。
〈天〔之〕-蒼蒼〉∥〈其-正色〉。[テンのソウソウたるは そのセイショクか。](天が青いのはその本来の色なのだろうか。)
①賢者亦楽此乎。
賢者∥亦-楽+此。[ケンジャも また これをたのしむか](賢者もまたそれを楽しむのか。)

●反復型

肯定形の平叙文の文末に否定の語を加え、肯定・否定いずれかの選択を求める形式のもの。(文末に置かれるのは否定の副詞が多いが、文末に置かれる場合、語気助詞に転化したものと見なす考えもある。)


②君知其解未。
君∥知+〈其-解〉・。[きみ そのカイをしるや いまだしや](あなたはその答えがわかった。)
③丞相可得見否。
丞相∥可-得-見・。[ジョウショウ えてみるべきや いなや](丞相には会うことができる。)
④可予不。
可-予。[あたうべきや いなや](与えるのがよいの。)

●疑問代詞型

疑問代詞(誰・何・曷・安・奚・胡・何如(何若)・如何(若何)など)を用いて不明の対象や原因・理由などを問うもの。疑問代詞は、文中では名詞以外にも様々な品詞・文成分を代替することができ、特定の要素を尋ねる疑問文を作る。文末には語気助詞を置く場合もあるが、置かない場合もある。


⓪誰能禦之。
∥能-禦+之。[たれか よくこれをふせぐ](誰がそれを防ぐことができるのか。)
⑤何謂浩然之気。
∥謂+〈浩然〔之〕-気〉。[なにをか コウゼンのキという](何を浩然の気というのか。)
▶─────【主語(人物・事物を問う)】(他に曷、奚、胡、安、焉、孰など)
⑥所以然者何。
〈〔所〕以+然〔者〕〉∥。[しかるゆえんのものは なんぞや](そうなる理由は何か。)
▶─────【述語・名詞性(事物を問う)】
⑦今日之事何如。
〈今日〔之〕-事〉∥何如。[コンニチのこと いかん](今日の事態はどのようであるか。)
▶─────【述語・形容詞性(性質・様態を問う)】(他に何若、何似など)
⑧袁本初其若我何。
袁本初∥〔其〕+我/[エンホンショ それ われをいかんせん](袁本初が私をどうしようというのか。)(「若何」が目的語をとる場合は「若」と「何」の間に入る)
▶─────【述語・動詞性(行為を問う)】(他に如何、奈、奈何など)
⑨周公何人也。
周公∥〈-人〉〔也〕。[シュウコウ なんぴとぞや](周公はどんな人か。)
▶─────【連体修飾語(性質を問う)】
⑩夫子何哂由也。
夫子∥-哂+由〔也〕。[フウシ なんぞユウをわらうや](先生はどうして由を笑うのか。)
▶─────【連用修飾語(理由を問う)】(他に何以、曷以、奚以、何故、何為、胡為、奚為、曷為、安、悪、焉など)
⑪石林高幾許。
石林∥高*幾許。[セキリン たかきこと いくばくぞ](林のようにそびえる岩はどれだけ高いのか。)
▶─────【補語(数量を問う)】(他に幾、幾何、多少など)

疑問代詞が目的語となる述語構造・前置詞構造では、その疑問代詞が述語や前置詞の前に出されて語順の倒置が起こる。


⑫我誰欺。
我∥⮀欺。[われ たれをかあざむく](私が誰をだますのか。)
▶─────「欺」が「欺」に転倒している。
⑬子何以教之。
子∥《⮀以》-教+之。[シ なにをかもって これにおしうる](あなたは彼に何を教えるのか。)
▶─────「以」が「以」に転倒している。

●選択型

二つの項目を挙げ、ある条件について比較し選択を求める形式のもの。


【「A与B孰…」型】(AとBでは どちらが…か)
↓↑
【「A孰与B…」型】(Aは Bが…であることにくらべてどうか)

⑭吾与徐公孰美。
吾∥《+徐公》∥美。[われとジョコウと いずれかビなる](私と徐公ではどちらが美しい。)
↓↑
⑮吾孰与徐公美。
吾∥+徐公∥美》。[われ ジョコウのビなるにいずれぞ](私は徐公の美しさにくらべてどうか。)

【「A孰与B」型】(Aは Bにくらべてどちらがよいか)
  • ※多くは、実質的に選択肢のうち後者を選ぶよう促す意味になる。

  • ⑯坐而待亡孰与伐之。
    〈坐{而}待+亡〉∥+〈伐+之〉》。[ザしてボウをまつは これをうつにいずれぞ](座ったまま何もせずに滅亡を待つのは攻めに出るのとどちらがよいか。)

    ◆9-2 反語文

    反語文は、形式上は疑問文だが、実質的に答えを求めるのではなく、修辞上の強調のために、わざと反対の答えを導くような問いを投げかけるもの。

    ●疑問文と同じ形態を取るもの

    形態上では疑問か反語かの区別はつかないので、文脈から判断しなくてはならない。


    ①不亦楽乎。
    不-亦-楽〔〕。[またたのしからずや](なんと楽しいことではないか。)
    ▶────────【語気助詞型】
    ②何罪之有。
    -罪〉∥之⮀有。[なんのつみか これあらん](どんな罪があろうかいやない)。)※「有之」が「之有」に倒置されている。
    ▶────────【疑問代詞型】

    ●反語の副詞(豈・安・寧・焉など)を用いるもの

    文末の語気助詞は置かれない場合もある。


    ⓪-1  豈不悲哉。
    -不-悲〔〕。[あに かなしまざらんや](どうして悲しまないだろう(いや悲しむ)。)
    ⓪-2  燕雀安知鴻鵠之志哉。
    〈燕・雀〉∥-知+〈鴻鵠〔之〕-志〉〔〕。[エンジャク いずくんぞ コウコクのこころざしをしらんや](ツバメやスズメにどうしてハクチョウが目指す行き先がわかろう(いやわかりはしない)。)
    ③予豈好辯哉。
    予∥好+辯〔〕。[ヨ あにベンをこのまんや](私がどうして議論を好もういや好まない)。)
    ④割鶏焉用牛刀。
    〈割+鶏〉∥用+牛刀。[にわとりをさくに いずくんぞギュウトウをもちいんや](鶏をさばくのにどうして牛刀を用いよういや用いない)。)

    ●反問・詠嘆の文

    疑問の構文を用いても、具体的な答えを求めるわけではなく、詰問したり念を押したりする場合や、詠嘆の意を表わす場合がある。これらの場合も、修辞的に問いかけの形を用いているだけであるという点では反語と共通する。


    ①若非吾故人乎。
    若∥非+〈吾-故人〉。[なんじは わがコジンにあらずや](お前は私の友達ではなかったのか。(友達のはずだろうに。))
    ②子盍従衆。
    子∥-従+衆。[シ なんぞ シュウにしたがわざる](あなたはどうして多数に従わないのですか。)
    ※この場合の「盍」は副詞で、「曷」「蓋」と同じく「何不(なんぞ…ざる)」の二字がつづまった語とされ、再読文字として読まれる。相手に行動を勧める言い方。
    ③何徳之衰。
    -徳〔之〕∥衰。[なんぞトクのおとろえたる](何とも道徳の衰えたことよ)※「之」は助詞で、感嘆の中心となる語の前に置かれて感嘆文であることを明示する。
    ④太子何忍也。
    太子∥-忍〔〕。[タイシ なんぞ ニンなるや](太子はなんと残忍なことでしょうか。)

    ※疑問の形式に拠らない詠嘆文の例も挙げておく。
    ⑤君子哉蘧伯玉。
    君子〔哉〕⮀蘧伯玉。[クンシなるかな キョハクギョク](君子であることだなあ、蘧伯玉は。)※主語と述語が倒置された形。
    ⑥事急矣。
    事∥急〔矣〕。[こと キュウなり](事態はさし迫っておりますぞ。)

    ◆9-3 命令文・禁止文

    平叙文に副詞・助詞等を加えて、命令や勧告、禁止の語気を表わすもの。命令文に関しては、場合によっては平叙文に何の要素も加えないもの、あるいは動詞一字のみでも命令を表わす場合がある。禁止の副詞には「勿」「莫」「無」「毋」などがある。


    ①君其待之。
    君∥待+之。[きみ それ これをまて](どうかお待ちください。)
    ※この場合の「其」は副詞で、主語の後に付き、勧告や命令などの語気を表わす用法。
    ②唯君図之。
    -君∥図+之。[ただ きみ これをはかれ](どうかこのことをご考慮ください。)
    ※この場合の「唯」も副詞で、「ただ」と読むが、勧告や命令などの語気を表わす用法。
    ③前。
    前。[すすめ](進め。)
    ⓪己所不欲施於人。
    〈己-〔所〕不-欲〉∥-施*《於+人》。[おのれのほっせざるところ ひとにほどこすなかれ](自分がして欲しくないことを人にする。)
    ④慎毋留。
    慎--留。[つつしんで とどまるなかれ](決して留まってはならぬ。)

    ◆9-4 比較文(補足)

    形容詞を用いた比較の構文については第6課で説明したので、ここでは補足として、判断詞「如」「若」を用いた比較の構文を紹介しておく。

    ●【「A不如B」型】(AはBに及ばない)

    主語∥不-如+目的語(比較対象)

    「不」は「弗」、「如」は「若」にも置きかえうる。「如」や「若」は判断詞で、比喩の意味(「…のごとし」)で用いられることが多いが、この場合は「同等の認定」の意味(「…に匹敵する」「…と同じだ」)である。「不如」という否定の形になると、「(…に)しかず」と読み、「匹敵しない」の意となり、つまり「AはBに及ばない」という認定を表わす表現となる。


    ⓪百聞不如一見。
    〈百-聞〉∥不-如+〈一-見〉。[ヒャクブンは イッケンにしかず](百回聞くのは一回見るのに及ばない。)
    ①猛虎之猶予、不若蜂蠆之致螫。
    〈猛虎〔之〕∥猶予〉∥不-若+〈蜂蠆〔之〕∥致+螫〉。[モウコのユウヨするは ホウタイのセキをいたすにしかず](獰猛なトラでも躊躇しているときには、人を螫(さ)すハチやサソリの危険さに及ばない。)

    ●【「A莫如B」型】(Aについては Bに勝るものはない)

    主語(主題)∥〈+目的語(比較対象)〉

    Aには範囲を限定する主題が入る。(「莫」の説明は第6課を参照。)この場合の「如」も「同等の認定」の意味であり、「Aについては、Bに匹敵するものが何もない」、すなわち「Aについては、Bに勝るものはない」の意となる。


    ②水行莫如用舟。
    水行∥〈+〈用+舟〉〉。[スイコウには ふねをもちいるにしくはなし](水の上を行くには舟を用いるのが一番だ。)